「SAVE THE 銭湯!」 とは?
このWEBマガジンは各業界の先頭集団といえるクリエイターや有識者たちと、
銭湯の新しい価値を模索する銭湯集団・日の出湯との対談で成り立つコンテンツ。
毎週水曜日(最終水曜日はお休み)に更新しています。

VOL.13 対談 GUEST

  • 中野量太(湯を沸かすほどの熱い愛 監督)
  • X
  • 田村祐一 (日の出湯経営者/SAVE THE 銭湯!主宰)

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』
中野量太監督インタビュー

対談14 WEEK3これからの銭湯

前回までのSAVETHE銭湯!はこちら(WEEK2

このインタビューも今回で最終回。
これまでは、映画の内容や、ロケ地について詳しくお話を聴かせて頂きました。
今回のインタビューでは、
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』監督の中野量太さんが考える、
これからの銭湯について、迫ってみました。

家のお風呂とは違う、銭湯にしかない「特別な何か」

田村祐一 (以下 田村):
前々回は「どうしても銭湯を再開させたかった(※前回 記事参照)」
と映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の設定の背景をお伺いしましたが今回は
「これからの銭湯」についてお話をお伺いさせてください。
監督はプライベートでも、特別感を求め、リフレッシュのため銭湯に行くことがある、
とのお話でしたが、なかなか銭湯に足を運ばない人がいるのも事実で、そこが銭湯業界の課題の1つです。
中野監督が考える「これからの銭湯」について何か思うところがあればお聞かせください。

中野量太監督(以下 中野監督):
今は、ほとんどすべての家にお風呂があり、
銭湯の担う役割が、昔とは大きく異なります。
よって何か特別な日、例えば疲れた日に行って癒される、
そんな存在として生きていくのが、今後の銭湯のあり方なのかな、と思います。
銭湯独特の昔ながらの雰囲気を求める部分と、
キレイで機能的な最新のお風呂を求める部分があると思います。
そんな中で建て替えや改装をする銭湯もありますよね。おそらく日の出湯さんもそうですよね?

田村:
そうですね、日の出湯も2000年に建て替えています。
以前の建物はロケ地「月の湯」さんと同じ昭和2年の建物でしたが、
老朽化が激しく、建て替えました。
かなりの費用が掛かるので、建て替えずに営業をやめてしまう銭湯も少なくありません。
また建て替えたため、雰囲気は大きく変わりました。

中野監督:
あ、そうそう、雰囲気の話でいえば、ロケ地を探している中で、
数年前にとある映画のロケ地として使われた銭湯も見学させてもらいました。
行ってみたら、内部がすごくキレイになっていて、ビックリしました。
あの雰囲気が良かったのに、なんでキレイにしちゃったの?なんて思いました。(笑)
撮影のロケ地として使わせてもらう側の勝手な意見ではありますが。

田村:
あ、あの銭湯ですね、わかります。(笑)
そうなんです、直しちゃったんですよね。ぼくもびっくりしました。

中野監督:
一番いいところが変わってしまっていて、あれ?と思いました。
昔ながら、だけに限らず、特別感がないと生きていけないだろうし、そこはせめぎ合いですよね。
昔ながら と 最新設備、どちらも魅力的だから、難しいところではありますけどね。

田村
そうですね。お客様の中には、昔ながらの銭湯の雰囲気を求めて来る方も少なくありませんが、
時には、スーパー銭湯並みの最新設備をイメージして来られる方もいて、
時にはガッカリされているんではないかと思います。(苦笑)
みんながみんな「味がある」と捉えてくれるわけではないですよね。
さらにいうと、銭湯側としては、
みんなが喜ぶ「味」とか良さがわからない部分もあります。
こちらからすると
「修繕したいなぁ・・・」
と思っていても、お客様からは
「やっぱりこの感じがいいよね。」
なんて言われることもありますし。(笑)

中野監督:
いずれにしても銭湯って、みんなが

「癒しを求めてやってくる空間」

であることに変わりはないですよね?
そこさえブレなければ、みんなが銭湯にやって来て、広いお風呂に浸かって、癒されてもらえればいいんだと思います。
1度でも銭湯で「癒し」を経験して、家のお風呂とは違う、
銭湯にしかない
「特別な何か」
に気付いてもらえれば、みんな銭湯に入りに来るんじゃないですかね?

田村
「癒しを提供する空間」が銭湯。
確かに1度足を運んでもらえれば、家の狭いお風呂とは違う、
“銭湯ならでは”の特別な何か、
を感じてもらえるような気がします。
それをきっかけに銭湯ファンになって貰えれば、すごく嬉しいです。

銭湯を知らない子ども達

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』中野監督

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』中野監督

中野監督
そういえば、そもそも最近の若い子って、銭湯の存在を知らないですよね?

田村:
スーパー銭湯や温泉には行ったことがあっても、
足を運んでもらえてないような気がします。
テレビを通じて「銭湯大好き芸人」で盛り上がったり、
深夜番組「昼のセント酒(テレビ東京)」でプチ・ブームみたいなものが起きて、
若い子が来てくれたりはしました。
でも、入り方を知らないでおっちゃんに怒られたり、とか。(笑)

中野監督
あはは。(笑)
数年前、僕がテレビの仕事で銭湯の番組をつくった時に、
取材の中で若い子が
「みんなで入るのが恥ずかしい」
とか
「風呂から上がって濡れた足の裏が気持ち悪い」
なんて声もありましたよ。

田村:
銭湯を知らない子ども達も増えていて、銭湯離れの傾向があることは否定できません。
ここ数年で見ても、本当にたくさんの銭湯が無くなっています。
10年前に東京23区で1000軒近くあった銭湯が、今では約600軒に減っていますし、この10年で約3割が廃業した計算です。
跡継ぎの問題だったり、建物の老朽化の問題がほとんどです。

中野監督
それで潰れちゃうんですか?

田村:
跡継ぎ候補の息子さんが会社勤めをしていて、そこそこの役職に就き、それなりの収入がある、となれば、会社を辞めるリスクはなかなか取れなかったりします。
そうなると「銭湯はやめてマンションにしようか」なんて話にもなりがちです。銭湯の敷地面積はそれなりに広く、ディベロッパーさんからの引き合いもあったりします。
銭湯経営者は、連休も取らず長年働き続けてきた方ばかりで「そろそろ休みたい。不動産オーナーも悪くないか。」
という気持ちも本音として抱えています。そこで、銭湯がマンションに建て替わり、銭湯が町から消えていってしまうことになります。
でも、ここは否定できなくて、銭湯経営者の気持ちもよくわかります。

刻まれた歴史のおかげであの雰囲気がある

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』

田村:
ただそんな中で、多種多様な銭湯の残し方もあると考えています。
それこそ、最新になってもいいですし、映画の中の「幸の湯」さんのように、昔ながらの雰囲気を残したままで、
町の人達が「久しぶり」なんて言いながら集う場、
として残す方法もいいな、と思っています。
最近では、地域の人達に「やめないで」と惜しまれ、愛される銭湯が根強く残っているような気がします。
映画のロケ地「月の湯」さんは、廃業してしまい、残りませんでしたが、まさに地域に愛される銭湯でした。
話は少し変わりますが「銭湯の残し方」の1つとして、銭湯自体をクリエイトして昔風に見せる、といった方面にも可能性はあると思いますか?

中野監督
どうでしょうかね。やっぱり刻まれた歴史のおかげであの銭湯独特の雰囲気があるんでしょうし、
無理に復刻してもどこか違うような気がします。それよりは、持っているものを活かす方がいい気がしますね。

田村:
確かに、監督のおっしゃられる通り「つくりもの」感は否めませんね。
うちの実家の銭湯「第二日の出湯」では、ロケ地として撮影を受け入れています。
「こんな古い銭湯でいいんですか?」といつも半信半疑でお受けしていますが。(笑)
撮影当日にその様子を見ていて、運び込まれたセット1つでガラッと雰囲気が変わったのを何度も目にしています。
そんな場面を今、ふっと思い出し、昔ながらの雰囲気を残しつつも新しくする、
なんて方法にも可能性があるのかな、と思いましたが、なかなか簡単ではないですよね。

中野監督:
それも1つのやり方ではある、とは思いますけどね。
ただし、やはり「歴史のおかげ」であの雰囲気があるのだと思います。

田村:
雰囲気を作り上げるのも銭湯の残し方の1つではありながらも、やはりそこは刻まれた歴史の為せる技。
最新設備を誇るスーパー銭湯とは違う「町の銭湯の生き残りのヒント」も頂くことができました。
まだまだ聞きたいことは山ほどありますが、お時間が来てしまったようです。

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」をテーマに、いち映画ファンの立場から、映画の裏話を聞かせていただき、
また風呂屋の立場からは、中野監督の「銭湯」への想いを、直接お聞きすることができ、
とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。
今回の話を通じて、映画「湯を沸かすほどの熱い愛」に込められた熱い想いを、より多くの人にお伝えしたい、と感じましたし、多くの人にこの映画を観てほしいと、改めて感じました。
ぜひとも最後のあのシーンを皆さんに観てほしい、と思います。
本日は取材の時間をいただき、本当にありがとうございました!!

中野監督:
こちらこそ、ありがとうございました。

tamura_nakanokantoku

編集後記

多種多様な残し方。最新 と 昔ながらの人が集う場としての役割。
地元の人に愛され「辞めないで」といわれる「幸の湯」のような銭湯が日本にたくさん残ってほしい、そう感じています。
そして、いよいよ3日後の10月29日土曜日から、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』が全国ロードショーです。
ぼくが銭湯オーナーであり、銭湯の話だから・・・という点を引いても大変素晴らしい映画です。
是非御覧ください!!

「湯を沸かすほどの熱い愛」は10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー

『湯を沸かすほどの熱い愛』は
10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー

配給:クロックワークス
コピーライト:(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
 
公開表記:10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
公式サイト:atsui-ai.com
出演:宮沢りえ  杉咲花  篠原ゆき子 駿河太郎 伊東蒼 /松坂桃李 /オダギリジョー
脚本・監督:中野量太

中野量太(『湯を沸かすほどの熱い愛』監督)

1973年7月27日生まれ、京都府育ち。大学卒業後、日本映画学校に入学。卒業制作の『バンザイ人生まっ赤っ赤。』(00)が日本映画学校今村昌平賞、TAMA NEW WAVEグランプリなどを受賞。卒業後、助監督やテレビディレクターを経て6年ぶりに撮った短編映画『ロケットパンチを君に!』(06)が、ひろしま映像展グランプリ、長岡インディーズムービー コンペティション グランプリ、福井映画祭グランプリ、水戸短編映像祭準グランプリなど7つの賞に輝く。08年には文化庁若手映画作家育成プロジェクトに選出され、35mmフィルムで制作した短編映画『琥珀色のキラキラ』が高い評価を得る。その後、『チチを撮りに』(12)が、第9回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞、第63回ベルリン国際映画祭正式招待を皮切りに、各国の映画祭に招待され、第3回サハリン国際映画祭グランプリなど国内外で14の賞に輝く。いま日本で最も注目の若手監督の一人。

関連WEBサイト
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』オフィシャルサイト

Special Thanks

Yuki Katuragawa

田村 祐一

田村 祐一SAVE THE 銭湯!主催者

投稿者プロフィール

1980年東京都大田区生まれ。
東京蒲田にある大田黒湯温泉第二日の出湯の四代目、銭湯の跡取りとして生まれ育つ。
大学卒業後、家業である有限会社日の出湯に就職。26歳の時に取締役に就任。
2012年5月より創業の地である浅草にある銭湯、日の出湯のマネージャーとして銭湯経営再建に着手。
2012年11月、銭湯を日本の未来に残すプロジェクトの一環として銭湯の未来をつくるWEBマガジン『SAVE THE 銭湯!』を創刊。

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