「もう、終わるから」と1度は断られたロケ地「月の湯」との出会い

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』
「SAVE THE 銭湯!」 とは?
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毎週水曜日(最終水曜日はお休み)に更新しています。

VOL.13 対談 GUEST

  • 中野量太(湯を沸かすほどの熱い愛 監督)
  • X
  • 田村祐一 (日の出湯経営者/SAVE THE 銭湯!主宰)

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』
中野量太監督インタビュー

対談14 WEEK2東京最古の銭湯「月の湯」での撮影

前回までのSAVETHE銭湯!はこちら(WEEK1

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」の撮影のロケ地の1つは、2015年5月31日に廃業した銭湯「月の湯」。
昭和2年に建てられた都内最古級の銭湯であり、多くの住民に生活の一部として愛されていました。
惜しまれながらも、約90年の歴史に幕を閉じました。
今回のインタビューでは、そんな「月の湯」との出会いについて迫ってみたいと思います。

「もう、終わるから」と1度は断られたロケ地
「月の湯」との出会い

田村祐一 (以下 田村):
今回の撮影は「月の湯」さんで行われたと伺っています。
はじめからロケ地として決まっていたのでしょうか?

中野量太監督(以下 中野監督):
いえ、はじめに依頼した時には「もう、終わるから」との理由で断られました。
実は、ロケ地探しにはかなり苦労しました。
外観と窯場については、比較的早い段階で栃木県足利市の「花の湯」さんに決まったのですが、
内部のイメージにマッチする銭湯がなかなか見つかりませんでした。

田村:
監督の中で、ロケ地を選ぶ上での条件はどんなものがあったんですか?

中野監督:
富士山の壁画があり、昔ながらの銭湯らしい雰囲気がある等、ビジュアルのイメージはありました。
やはり映像として残るものなので、こだわってロケ地を求め、銭湯を何軒も回らせていただきました。 
イメージに近い銭湯が見つかっても、営業中の銭湯となれば、
撮影の日程や時間にも制約が生じますし、こちらからお願いしたい条件をお伝えすると、
「それは無理だ。」
と断られるなど、イメージと条件の双方が整った銭湯はなかなか見つからず、難航していました。

田村:
ぼくの両親が経営する銭湯、「第二日の出湯」もよく撮影を受け入れていますが、
条件が合わないケースは少なくありません。
営業時間に影響を及ぼすわけには行きませんし、
開店時間となればすぐにお客さまが来てしまいますので、
銭湯としてお手伝いはしたくても断らざるを得ない気持ちはよくわかります。
ちなみに「月の湯」のオーナーさんから1度は断られながらも、
最終的にロケ地として受け入れていただけた経緯はどのようなものだったのですか?

中野監督:
他の銭湯では、営業時間等の兼ね合い等の条件面で断られ続けたため、その点を逆手に取って、再度交渉しに行きました。
そしたら、面白いオーナーさんで
「宮沢りえさん来るの?」
「本当に、宮沢りえさん来るの?」って。(笑)

田村
それで決まったんですか?(笑)

中野監督:
はい、たぶん。(笑) 

映画として最高に幸せな撮影

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』

中野監督
5月末の廃業後、すぐ取り壊す予定だったそうですが、解体時期も延ばしていただきました。
撮影のためだけにお湯を沸かしていただくなど、全面的に撮影にも協力して頂きました。
当然、お客様は誰も来ませんし、結果的に映画を撮影する上では最高の条件が整いました。

田村
この映画があったから解体が延びたんですか。それは知りませんでした。
確かに営業していない銭湯だと気兼ねなく撮影できますね。

中野監督
そうなんです。例えば、映画の絵としては映り込んで欲しくない自販機を撤去させていただいたり、
湯船の目地が汚れていたのを白く塗り直して補修するなど、
営業中の銭湯では難しい対応もさせていただき、細部にもこだわることができました。

田村:
確かに普段の営業がある銭湯での撮影では、セットを持ち込むのが精一杯ですよね。

中野監督
そう考えてみると、映画としては「最高に幸せな撮影」になりましたし、この巡り合わせのおかげで、東京で1番古い昭和2年の建物の内部を映像で残せたのも良かったのかな、と思っています。
映画を撮影していると、いつも多くの「ご縁」がありますが、今回の映画にとって、大きな「ご縁」のひとつが「月の湯」さんとの出会いだったように思います。

田村:
銭湯としては、記録ではないですけど、映画という素晴らしい作品の中で、「月の湯」が映像として残ったことは、
どこか嬉しく感じます。本当に愛されていた銭湯だったので。
私が経営する台東区にある銭湯「日の出湯」も、前身は月の湯さんと同じ昭和2年に建てられたと言われています。
老朽化が激しく2000年に建て替えたのですが、建て替え前の銭湯については、映像はおろか、写真すら残っていません。
お婆ちゃんに聞いても「ない」と言われます。(苦笑)
それを思えば、月の湯さんにとっても「最高に幸せな撮影」だったのではないか、と思います。

「あ、これが銭湯の本当の終わりなんだな。」

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』中野監督インタビュー

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』中野監督インタビュー

田村:
歴史的瞬間というとおおげさかもしれませんが、
まさに消えゆく銭湯「月の湯」を舞台にして、映像におさめられたわけですが、
その最後の瞬間に立ち合う中で、感じたことはありますか?

中野監督
少し違うかもしれませんが、撮影の中で印象的な出来事がありました。
先ほども述べた通り、撮影のため、オーナーさんの協力を得て、「お湯を沸かしてもらった日」がありました。
廃業した銭湯ですので、言ってしまえば、オーナーさんにとって、本当に最後の湯を沸かす瞬間に立ち会ったわけです。

田村:
その時のオーナーの心境を想像すると、とても複雑な気持ちになります・・。

中野監督:
その日の撮影が終わって、我々が外で片付けをしていたら、そのすぐ横で、オーナーが服を脱ぎ出して裸になり、
最後に入ったんですよね、お風呂に、1人で。
最後に沸かした湯に入っておきたい、と思ったんじゃないかな、と直感的に思いました。
オーナーが1人で湯船の最後を味わっているのを、すぐ横で見ていて「あ、これが銭湯の本当の終わりなんだな。」と思いました。
最後に自分が入って、これが本当に終わりなんだな、と。

田村:
最後の「湯沸かし」ですか・・・。
おこがましいですが、気持ちはわかる気がします。
片付けているその横で入るかどうかはわかりませんが、きっと僕もそうすると思います。
ひょっとしたら最後の湯を一緒に味わって欲しかったのかもしれませんね。
ただ、なんだかんだ言っても最後の最後はやっぱり1人で入りたい気がします。

月の湯オーナーの「それは、ボクだってそうしたい。」

中野監督:
もう1つ興味深い話を思い出しました。映画の終盤最のシーン(内容は自分の目でお確かめください。)ですが、
銭湯経営者はどう思うのかな?と思って聞いてみたら、
月の湯のオーナーさんが
「それは、ボクだってそうしたい。」
とおっしゃられたんです。

田村:
僕も銭湯経営者の立場で映画を観ていて「銭湯で育った人間なら誰もが1度は考えることだな。」と思いました。
「映画をご覧いただけると分かるかと思います(笑)」と監督がおっしゃっていたのは、あのシーンのことですよね?

中野監督:
そうです、そうです。
脚本の段階だったので、文字で書いていたわけですが、実際に各地の銭湯を取材していたところ、
月の湯以外の銭湯の方からも「うちもそうだったのよ。」と言われて、正直驚きました。

田村:
銭湯経営をしていたうちのおじいちゃんの時も似たような感じだったんで、
銭湯の内部事情をすごく知ってるな、どこで知ったんだろう?と、ビックリしました。

中野監督
まったくの私のイメージだけで、書き上げたものでした。
例えば、別のシーンですが、浴室に入っていって脱衣場から出てきて脱衣場で喋っているシーン、
あのイメージも自分の頭の中でつくりあげたものでしたし、最後も私のイメージだけでした。
取材をして、実際の銭湯経営者の中にも、そう考える人がいるんだと、後から知った感じです。

田村:
映画を見た後に思い返してみると、相当取材を重ねられて、調べられたのだと思っていました。
銭湯の立場からすると、まったく違和感のない設定で驚きました。
でも、前述したあのシーンを一般の人が見たらどう思うんでしょうかね。
ぜひご覧いただいた感想を聞いてみたいですね。
(次週へつづく)

『湯を沸かすほどの熱い愛』は
10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー

配給:クロックワークス
コピーライト:(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
 
公開表記:10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
公式サイト:atsui-ai.com
出演:宮沢りえ  杉咲花  篠原ゆき子 駿河太郎 伊東蒼 /松坂桃李 /オダギリジョー
脚本・監督:中野量太

中野量太(『湯を沸かすほどの熱い愛』監督)

1973年7月27日生まれ、京都府育ち。大学卒業後、日本映画学校に入学。卒業制作の『バンザイ人生まっ赤っ赤。』(00)が日本映画学校今村昌平賞、TAMA NEW WAVEグランプリなどを受賞。卒業後、助監督やテレビディレクターを経て6年ぶりに撮った短編映画『ロケットパンチを君に!』(06)が、ひろしま映像展グランプリ、長岡インディーズムービー コンペティション グランプリ、福井映画祭グランプリ、水戸短編映像祭準グランプリなど7つの賞に輝く。08年には文化庁若手映画作家育成プロジェクトに選出され、35mmフィルムで制作した短編映画『琥珀色のキラキラ』が高い評価を得る。その後、『チチを撮りに』(12)が、第9回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞、第63回ベルリン国際映画祭正式招待を皮切りに、各国の映画祭に招待され、第3回サハリン国際映画祭グランプリなど国内外で14の賞に輝く。いま日本で最も注目の若手監督の一人。

関連WEBサイト
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』オフィシャルサイト

Special Thanks

Yuki Katuragawa

田村 祐一

田村 祐一SAVE THE 銭湯!主催者

投稿者プロフィール

1980年東京都大田区生まれ。
東京蒲田にある大田黒湯温泉第二日の出湯の四代目、銭湯の跡取りとして生まれ育つ。
大学卒業後、家業である有限会社日の出湯に就職。26歳の時に取締役に就任。
2012年5月より創業の地である浅草にある銭湯、日の出湯のマネージャーとして銭湯経営再建に着手。
2012年11月、銭湯を日本の未来に残すプロジェクトの一環として銭湯の未来をつくるWEBマガジン『SAVE THE 銭湯!』を創刊。

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